鴉の爪

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ファニーゲーム

「落ち度は、誘い出されたその馬鹿に反撃を許してしまった事だ。
だが、返り討ちにあって殺されてしまったのだから世話もない」
「そんな言い方……」
「何が悪い? これはそういうゲームだ」

ダンガンロンパ1・2 Reload - PSVita

ダンガンロンパ1・2 Reload - PSVita


「尊師MMD」なるポリゴンモデルが人気である。第14回MMD杯で受賞した動画を幾つか見てみたが、どれも抱腹絶倒ものの傑作揃いだ。動画は↓のページから見ることが出来る。
尊師MMDとは (ソンシエムエムディとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
これら動画から、2012年頃から聞いていた「唐澤貴洋」弁護士への中傷事件が、沈静化するどころか全く違うフェーズへ拡大・深化を遂げていることを知る。


No such wiki - ShoutWiki Hub


上記は問題のまとめwikiであるが、こと「中心人物」とされた人々については実名は勿論のこと、住所、年齢、性別、職業、果ては顔写真まで掲載されており、やりたい放題の極地という趣を見せている(編集しているのは主に2ちゃんねる「なんでも実況J」板住民(なんJ民)と思われる)。唐澤氏が「尊師」と呼ばれていることも含めて、何となくネット黎明期の「オウムサイト」を彷彿とさせる。(事実、「旧尊師」の項目もある→No such wiki - ShoutWiki Hub
これだけやっても警察は動かないどころかプロバイダーから削除すらされないのだから、ネットで匿名の誹謗中傷が蔓延るのも当たり前であろう。


http://logmi.jp/43315

基本的にはソーシャルゲームです。普通はネット上の嫌がらせをソーシャルな活動とはみなしませんが、使用された戦略や策略から、加害者たちが単独ではなく、実際はゆるやかに互いに連係していることがわかります。


そしてこのソーシャルな部分は、プレイヤー、つまりは加害者が参加し、実際に攻撃をエスカレートさせようというやる気を起こさせる強いモチベーションとして働きます。そうすることで仲間から賞賛と承認を得られるからです。


それは、だんだん厚かましく汚くなる攻撃を仕掛けることで「ネットポイント」が得られる、一種の仲間内のポイント制度みたいなものです。そういった攻撃を記録し、証拠として伝言板に書き込み、戦利品や成績のように互いに見せびらかすのです。


ソーシャルゲームの全体的な構造がわかりましたよね。プレイヤーがいて、「悪役」つまり私がいます。戦場があり、仲間内のポイント制度もあります。


でも大事なのは「これはゲームではない」ということです。これは巨大なスケールで女嫌いの怒りをあからさまに示したものです。「男の子はそんなものさ」とか「ネットとはそんなもの」と片付けられるものではありませんし、無視したからといってなくなるものでもありません。単なるゲームじゃないのです。


彼女がそう言いたくなる気持ちもわかるが、それでもコレは単なるゲームである(そう捉えないと本質を見間違う)。
上記記事を受けて「女性差別けしからん」という声がにわかにわき上がっているようだが、誹謗中傷の度合いで言えば唐澤氏の方が悪質で酷いし、匿名者から長期間に渡り誹謗中傷を受けたという意味合いでは、スマイリーキクチ氏や多田野数人氏の方がよほど酷い目にあっている。
多田野氏に至っては、本人がセクシャルマイノリティであること*1が中傷の主な理由の一つなのだが、性差別にうるさい(自称)リベラル連中が、何故多田野氏の件では一様に口を閉ざすのだろうか。


キーパーソンインタビュー:ネット上の中傷「加害者を減らしたい」 お笑い芸人のスマイリーキクチさん - 毎日新聞

検挙された方々はみんな普通の社会人で、それなりの社会的地位の人もいました。しかし、検挙されても謝罪よりも被害者意識の方が強いようです。「私は悪くない」から始まって、最初は「犯人が憎い」「許せなかった」と言いますが、なぜ自分がやったかと問い詰められると、「ネット上の情報にだまされただけだ」「最初にウソを書いたやつが悪い」「みんなやっている人がいる。何で自分だけ」。そして「私もストレスを抱えてつらい」……。


 最後には「キクチのせいで犯罪者にされた」となる。「私が書いた回数は少ない」と言い張る人もいました。でも、万引きは1回でも犯罪になります。人を殴るのが1発ならいいのか、という話になりますか。


 仮に少年法がもっと厳しく改正されたとしますよね。未成年でも実名報道になって、テレビでも新聞でも顔写真が出る、名前も出る。そうしたらネット上の中傷は無くなると思いますか。僕は無くならないと思う。彼らは「新聞がやっている、テレビがやっている。だから俺たちもやる」となるだけで、結局、中傷に加担する人たちは、今と同じことを別の理由で正当化して続けていくだけだと思う。常に逃げ道を探して、無責任で人ごとになる。どうして中傷するのか、もっと根本から考える必要があるでしょう。ヘイトスピーチも差別表現も根は同じだと思います。

被害者の弁としてキクチ氏の意見は尤もだが、匿名の中傷を「無責任」から去来しているものと見るのはいかにも皮相だ。
唐澤氏への中傷では、2ちゃんねるへ殺害予告を書き込んだことにより実際に何人もの逮捕者が出ており、騒動の課程で実名や住所を晒されてしまった「ゲームのプレイヤー」も枚挙に暇がない。それでも彼らはやり続けるのである。何故か? 単なる横の繋がりや、評価経済の中で承認欲求を満たしたいから、だけではないだろう。


No such wiki - ShoutWiki Hub

騒動初期に弁護士事務所のTwitterアカウントで複数人のアイドルのアカウントをフォローしていたことが判明した。また、判明の5分後にTwitterアカウントに鍵が掛かっているため、なんJを覗いていた可能性が非常に高い。

高学歴を誇る金持ちのボンボンでありながら、唐澤氏がやってたことはまるで2ちゃんねらーである。


思うに、これらのような誹謗中傷事件を読み取るには、「何故彼女/彼がターゲットとして指名されたか」を考えなければならないんじゃないか。
「(中傷をする人には)共感能力が欠けている」とキクチ氏は言う。しかし、「足立区出身の元不良」で「そこそこ成功した(過度に有名でない、というとこがポイント)お笑い芸人」であるキクチ氏に対し、少なくない中傷者達は、自分と近しいもの、不可思議な連帯性のようなものを感じたのではないか。
だからこそ、誰かを集団で中傷する=集団暴行殺人の犯人である者達に対し、歪んだ黒い鏡に写った己の姿を見いだし、それをキクチ氏に「転嫁」してみせたのではないか。最も、「転嫁」された側であるキクチ氏が、そのことに気付かないのは当然であるが。


多田野氏のスキャンダルが判明したとき、球界は彼を事実上追放し、マスコミも含め、誰も彼に対して救いを差し伸べることはなかった。それは、彼が「AVに出ていた」からではなく、旧態依然としたホモソーシャルであるプロ野球界で、未だにゲイセックスがタブーと見なされているからではないか?
そして、「火遊び」によって周囲の承認を得ようとする悪芋たちにとって、「タブーに踏み込む」ことはこの上ない快楽を与えてくれるのではないか?


そう考えれば、日本の状況と異なり*2、女性がある程度の社会的地位を獲得したアメリカ社会にあって、女性差別は「タブー」であると同時に、この「ゲーム」に参加しているユーザー=自身を「弱者」「被害者」と思い込んだ男性達にとっては、抑圧された暗い鏡の中の自分へ手を差しのべる、唯一残されたアクセスの方法なのではないだろうか?


「深淵を見るものは……」の格言ではないけれど、何かを強く批判するとき、見えない鏡の中にいる自分自身を見つめられない者は、何れ火の中に己が身を投じるハメになるのではないか?


望んでそうしたいなら、まあ好きにすればいいが。

夜中に化粧してどこ行くの
自分の亡霊がやけにめかし込んでんね
俺のヘッドの中のあんたって一体誰なんだっけ
昨日ステージで何やってたんだっけ
こんなゲームにそもそもなんで参加してるんだっけ
名前すら持たずに
鏡に写ってるあんたって一体誰なんだっけ

*1:釈明会見で当人は否定しているが、ネット上では公然の事実と前提されている

*2:本邦においては、そもそも「ゲーム批評をするフェミニスト」のような存在は、あと20年以上経っても出てこないかもしれない。それぐらい状況は悪い